ごあいさつ 17世紀頃 19世紀頃 20世紀頃
Machine Tool Collection

ごあいさつ 

産業革命の主役が蒸気機関と紡績機であったとすれば、それを陰で支えたのは工作機械であった。
人間の忍耐を超える正確な反復作業、人力が到底及ばない強大な力、肉体的に不可能な危険な作業、これらを的確に遂行する工作機械の存在が無ければ、ワットやライト兄弟の偉大な発明も陽の目を見ることは無かったであろう。「機械を作る機械」工作機械は、もはや人の手の延長としての工具ではなかった。
限られた熟練機械職人に代わって、工作機械は安価で均質で、なおかつ高品質の生産機械を大量に送り出した。その結果、工場労働者は劇的に増大し資本家による大量生産システムが確立したのである。
残念ながらモーズレー、ナスミス、ホイットワースといった工作機械製作のパイオニア達はダイムラーやスティーブンソンほどには名前を知られてはいない。工作機械は民生品ではなく工作工場内に閉じ込められる宿命である以上それはある程度やむをえないことかもしれない。しかしながら近代資本主義の発展過程における工作機械の重要性は、もう少し評価されてもいいのではあるまいか。
もう一点、工作機械に関して特筆すべきはその自己変革性にある。工作機械が内包する母性原理ゆえに高精度で複雑な新しい工作物の誕生は、まず工作機械自身により高精度により複雑にという要求を突きつけてくる。技術者達はその要求に応えるべく改良を施すかあるいは まったく新しい工作機械を作り出す。別の技術者はその新しい機械に別の能力や精度を付け加えていく。それは時として最初の技術者が想像もしなかったような画期的な工作機械になることもあった。このようにしてひとつの結果が新たな原因となるような自己変革の連鎖が生まれるのである。さらに電力、油圧技術、高精細な測定器、数値制御技術など自身が生み出した機械やテクノロジーを再び自身の内に取り入れることによって工作機械は常に機械工業のトップランナーとして時代をリードしてきた。
近代工業の発展史はまさに工作機械の発展史そのものであったといっても過言ではあるまい。欧米では敬意と感謝を込めて工作機械を「マザーマシン=母なる機械」と呼ぶことが多い。むべなるかなの思いがする。
さて、かように貴重な工作機械であるにも拘らず保存される年代物の工作機械は極めて少ない。近代工業史の重要な証言者であるアンティーク工作機械は、単にノスタルジーの対象で終わるものではない。機械に込められた製作者達の工夫と情熱、神の手が加わったとしか思えぬ精度の高さなど現在の私達が学ぶ点はまだまだ数多く残っている。世界有数の工業国であるわが国にアンティーク工作機械の常設展示場も博物館も存在しないのはいささか淋しい思いを禁じえない。
当社のコレクションは相当規模であると自負してはいるが、当初から収集を目的としていたわけではない。創業者の小川良平氏が使用していた機械を大切に保存していたもの、ご縁があって譲り受けたもの、貴重な資料として購入したもの、と由来は多様であるが年月とともに気がつけば200台を超えるコレクションになっていたのである。
当社は新入社員の教育の一環として、これらの機械の整備を行ってきた。これからも前の時代からの貴重な預り物として、大切に保存し次の時代に受け渡していきたいと念じている。今回のコレクション開示を多くの方にご覧いただき、何らかの感慨を持っていただければ幸いである。


  株式会社 三 共 製 作 所
代表取締役社長 小川廣海

 

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